伊勢原市の伝説的なパン屋、ブノワトンの湘南小麦プロジェクトを紹介した。
地産地消を地で行く試みであるし、そんなに素晴らしいプロジェクトなら、神奈川県を挙げての農産物プロモーションである、かながわブランドにも選ばれているだろう。そう思ったのだが、事はそんなに単純ではなさそうだ。
湘南地方に頻出する「湘南○○小麦」ブランド
元々湘南地方自体、小麦の産地として広く作付けがあった。外国産小麦の勢いに押されて衰退してしまったわけだが、なおも小麦を作り続ける農家というのは残っている。別に湘南小麦プロジェクトが、絶滅の危機にあった湘南の小麦生産者の、最後の数件を束ねて取り纏まったというわけでもない。
それで、湘南小麦の名前が有名になった後、藤沢市や平塚市といった自治体の小麦農家が、自分たちの作る小麦をブランドとして売り込んでいくため名称をつけた。藤沢市の場合は、「湘南藤沢小麦」。平塚市の場合は「湘南カオリ小麦」。
先行ブランドが正義で、後から作られたブランドが臆面の無い真似事だ、と決めつけているわけではない。ただ、後から出来たブランド小麦としては、どうにか市場に切り込んでいけるネーミングを考えたときに「湘南○○小麦」という名称になったのだろう。
だが、外国産の安価な小麦にない特徴として、小麦の表皮である「ふすま」を混ぜ込んだものを用意しているところや、プロモーションの一環として小麦畑の麦踏み体験を行っているところなど、3者は似通っていると言える。消費者側としては混乱するのではないか。そして、上位自治体である神奈川県としては、どのブランドを対外的にプッシュしていけば良いのか定まらない。このためか、かながわブランドの小麦の項目は該当無しである。
各々のブランドの良さ
実際にどのブランドが優れているのかは、消費者としては食べてみるなど体験によって判断するしかない。なんとも言えないが、先行者である湘南小麦について、前回紹介した記事を始め様々な記事に当たってみた結果思ったのは、ブランドの価値を作り出しているのが、決して湘南地方で育った小麦という部分だけではないということ。管理方法であったり、製粉であったり、小麦を使ったパンを作るときの配合であったり。あるいは、ブノワトンという店舗の暖簾分け基準であったり。
後続のブランドの方は、同じ市区町村内でブランド運動に参加したいという農家がいれば参加できるなど、フットワークの軽さがあるだろう。また、市区町村や商店組合のB級グルメ運動との連携例もあるようだ。たとえば湘南藤沢小麦の場合は「藤沢炒麺」というグルメ。湘南カオリ小麦の場合は「湘南カオリ麺」というグルメ。
まあ、こういう事例があって、やはり湘南地方の外の人間から見ると、湘南はまとまりが無いというイメージを持たれてしまうことは否めない。