小麦アレルギーの起きにくい古代種 スペルト小麦について調べてみた
現在栽培されている栽培品種の麦は、収量を上げるために個体選抜や品種改良が繰り返されてきた結果、種子が穂に生ったまま発芽してしまう穂発芽などが起き易いといったようなことを前回書いた。その中で少し触れた、古代からの麦の姿をそのまま留めているとされるスペルト小麦。今回は、このスペルト小麦についての紹介と、何故近年になってこの麦が注目を集め始めたかについて書いていこう。
スペルト小麦とは?基本情報
市場に多く出回っている栽培品種に対して、古代麦の特徴を良く残した品種がスペルト小麦であると説明したが、スペルト小麦自体も栽培品種であり、注目を浴びる以前もその栽培はスペインや東ヨーロッパなどで細々と続けられていた(したがって、古代ハスのような人為的な復活物語とは異なる)。また、つい先頃19世紀まではヨーロッパの主流栽培品種の一つであった。19世紀以前の資料に出てくる、farやodoreumといった難脱穀性の麦というものは、スペルト小麦である可能性が高い。
何故段々と栽培がされなくなってしまったのかというと、スペルト小麦の種子は硬く厚い皮に覆われており、外れにくい。そのため脱穀が難しく、また小麦粉に加工する場合の収量性が劣っていたからという理由が挙げられる。
スペルト小麦が見直されたきっかけ
そんなスペルト小麦が見直されるきっかけとなったのは、1970年代にイタリアで運動の萌芽が出始めたという、スローフード運動だ。スローフード運動というのは、均一化されたファストフードに対して食事のクオリティ、食材への関心、健全で健康な食事などを追求する運動で、本格的にスローフードの語が現れ世界的な運動になるのは1986年まで待たなければならないが、それ以前からイタリア北部の町ブラを中心とした運動として存在していた。その運動の中で伝統的作物の見直しが行われ、古代エジプトから栽培され、旧約聖書にも登場するというスペルト小麦にも光が当てられることとなったのである。
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スペルト小麦の優位点
スペルト小麦が優れているのは、その歴史の長さとキャッチコピー映えだけではない。まず、現代の栽培品種に比べ硬い皮殻という原種の特徴をよく留めているため、病気や害虫への耐性が強い。そのため、農薬を使わない栽培に向いている。
また、栄養価が現代の栽培品種とは異なっており、ミネラルなどをより多く含む。現代の栽培品種の場合栄養の多くが表皮や胚芽に含まれており、これらの部分は小麦粉に加工される時点で脱落してしまう。ところがスペルト小麦の場合は栄養が小麦の粒の中心に集中しているため、加工を行ってもこれを余さず摂取することが出来る。したがって、健康食品的な受け容れ方もされている。
また、良質プロテインを含むおかげで、胃腸機能の弱い人にも消化し易いという特徴も重要であり、病気の患者や高齢者の食事に適している。
加えて、小麦アレルギーの患者が摂取してもアレルギー発症がしにくいという特徴もあるようである。勿論スペルト小麦で発症をしてしまう患者がゼロというわけではないが、もしスペルト小麦だけは大丈夫ということになれば、通常の小麦の代替として加工食品などに利用できるので、患者の食事の制限も取り払われることになるだろう。
国内では利用・栽培とも少ない
このスペルト小麦は、日本ではレストランなどにおいて普通の小麦と同じくパン等に加工されて提供されたり、あるいはサラダやスープの食材として利用されていたりする。小麦の代替としてよりは、変わり種レシピとしての需要で採用されることが多いようだ。知名度が低く、価格も高価であるため、小麦代替として使ってしまうと勿体ないというのが現状といったところだろう。
スペルト小麦の栽培についても、国内では事例が少ない。したがって市場に出回っているのは輸入麦が殆どとなる。
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神奈川県のように、小麦栽培の気運があり、洋食レストランという消費地が近隣に多くありながら、ご当地品種と言える小麦がない状態の地域で、栽培化・名物化するのにとても向いているとは思うのだけれど。どうでしょう?