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"どぶろく祭り"にも3種類ほどカテゴリがありそう

前回のエントリで何気ない好奇心からどぶろくと濁り酒の違いを調べてみたら、調べ物が膨らんで膨らんで、大変である(笑)。とりあえず当初の疑問は秦野どぶろく祭りという祭がどぶろく特区でもない秦野市でどうして開催できるのかというものだったので、素直にその疑問を解決するエントリだけでも上げてしまおう。

前回のおさらい どぶろくと濁り酒の違い

前回長々と説明したエントリがこれ。

hadanon.hatenablog.com要約すると、どぶろくと濁り酒の違いは、濾過を経ているかいないかのみ(濾過をしないとどぶろく)。そして酒類製造免許のカテゴリが異なるので、酒造メーカー的には濾過工程を加えてどぶろく清酒カテゴリで発売した方が税率的に有利。一方醸造量が規定値に満たない個人や団体が、どぶろく特区という特例の力を借りてどぶろく醸造することが出来るが、この場合濾過をしないどぶろくのみが許される。

"どぶろく特区"の概要

それではどぶろく特区とはどういったものか。端的に言うと、特区に指定されたエリアの農家は自家製米を使ってどぶろくを製造・販売しても良いという内容である。

歴史的に見て、元々自家製酒(その大部分がどぶろく)というのは各家庭が勝手に作ることの出来たものなのだが、大日本帝国日清戦争に勝利した後、(日露戦争前夜でもあったので)富国強兵のためにお金が必要になって酒税の増税を行った。その際に自家製酒の製造も禁止されてしまったのだ。なにしろ酒造メーカーから巻き上げる酒税が明治政府の税収の4割を占めたこともあるという。そりゃあ自家製酒を取り締まって、課税対象となる酒(=酒造メーカー製の酒)のパイを最大化し続けないといけない。

ということあって、長らく民間レベルでのどぶろくの製造は禁止されていた。それが、小泉政権下で提唱された構造改革特区のひとつとしてどぶろく特区が登場し、特区指定を受けた自治体で原料米の生産者がその他醸造酒の酒類製造免許を取得すれば、醸造量に関わらずどぶろく醸造や特区内での提供・販売が許可されるようになったのだ。

でも現状秦野市どぶろく特区になっていないが…

国税庁ホームページを検索すると、平成28年度時点でどぶろく特区となっている自治体のリストがヒットする(PDFリンク)。リストを見ても、秦野市どころか神奈川県(ついでに東京都も)の自治体の名前が出てこない。それなのにどうして秦野市で毎年どぶろく祭りを行うことが出来るのかというと、前回のエントリでも触れたがどぶろく祭りで振る舞う『秦野てんてこまい』という酒を醸造しているのが酒造メーカーだからだ。そして、厳密には濾過をして瓶詰めを行っているので、酒税法のその他醸造酒(濁酒)カテゴリではない。

つまり、どぶろく祭りという名前だが、実際振る舞っているものはどぶろく清酒なのである。そして、その違いは濾過しているかしていないかに過ぎないので、別に悪質な詐称というわけでもない。このタイプの祭が、どぶろく祭りの1つ目のカテゴリになる。

どぶろく特区で行われるどぶろく祭り

もう一つのどぶろく祭りが、これまで説明してきたどぶろく特区で醸造を認められた生産者が主催するどぶろく祭り。Googleでランダムに検索してみて、山形県飯豊町宮城県大河原町高知県三原村などの例が見つかった。飯豊町大河原町のものは、特定の祭日に行うイベントのことをどぶろく祭りと称するのでなく、どぶろくを提供できる期間全体を指してどぶろく祭りと称しているようだ。このタイプのどぶろく祭りで提供されるどぶろくは、法律上間違いなくその他醸造酒(濁酒)にあたるだろう。

神事として特別に認められるどぶろく祭り

最後のタイプである。一般にどぶろく祭りというと、岐阜県白川郷で行われるものや大分県杵築市白鬚田原神社で行われるものがイメージされるのではないだろうか。これらの神事としてのどぶろく祭りは、明治の時代に酒造メーカー以外のどぶろく醸造が禁止されてからどぶろく特区による規制緩和が行われるまでもずっと続いてきた。そして、現在もどぶろく特区による許可を根拠としてどぶろく祭りを開催しているわけではない。

どうやら国税庁によって神事としてのどぶろく醸造が認められた神社が全国に40社ほどあり、白川郷の3社や白鬚田原神社などはこの特例を根拠としてどぶろく祭りを行っているのだ。そりゃあ、明治時代に出来た法律がどぶろく醸造禁止の根拠なのだから、神社の神事には特例的配慮があるのも頷ける。

最後に完全に余談になるが、濁酒でない清酒醸造に特例的配慮がされている神社も全国で4社あるらしい。それが伊勢神宮出雲大社、千葉県南房総市の莫越山神社、山口県宇部市の岡崎八幡宮となる。この4社、神社好きで酒好きならば制覇してみたくなる。

結論

ということで、秦野市の秦野どぶろく祭りはどぶろく特区によるどぶろく祭りではなく、現状振る舞っている酒も厳密などぶろくではないという結論が出た。ただ、原料米の生産という点においては既にクリアが出来ているので、今後秦野市のどぶろく特区認定(神奈川・東京で初!と話題性も充分)と、真のどぶろくの振る舞いに期待して待っていても良いのではと思っている。