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人為的に復活させた古代小麦カムット小麦

古代小麦スペルト小麦は、1970年代イタリアのスローフード運動による再発見のときまで栽培品種であり続けたため、決して古代ハスのような人為的に復活させた品種ではないと紹介した。一方、似たように古代エジプト栽培されていた品種で、カムット小麦という品種がある。こちらは古代ハスタイプの小麦だ。そのストーリーを見ていこう。

カムット小麦が現代によみがえるまで

時は第二次世界大戦直後の1949年、場所はエジプト。アメリカ軍のとあるパイロットがエジプトのファラオの石棺にあった小麦を勝手にくすねて、モンタナ州に住む家族に送りつけた。この麦は"ツタンカーメン王の麦"として売り出されたが、あまり関心をひかず、次第に忘れ去られたという。

1977年に、モンタナ州のマックとボブという2人の農夫がこの麦の栽培化に取り組み始める。1990年に彼らはエジプトのヒエログリフで小麦を意味するKamutという名称をこの麦の品種として商標登録し、またKamut Internationalという組織を作り、名称Kamutの使用に細かいルールをつける。たとえば、人為的な品種選抜が行われていてはだめ、オーガニックな土壌で育てられていないとだめ、含有蛋白値が12〜18%でないとだめなど。

カムット小麦はスペルト小麦のスローフード運動と異なり、純粋に商業的なコンテクストで復活した小麦である。したがって、その"発見"エピソードがどこまで本当なのかはわからない。"ツタンカーメン王の麦"だの、ノアに因んだ"預言者の麦"などちょっと胡散臭いキャッチコピーがつけられているが、完全にストーリーで訴えかけるタイプのプロモーションだ(規模は小さいが、神奈川県の失われようとする小麦栽培文化というストーリーに訴えかけた湘南小麦に近いだろう)。

けれども、実際のカムット麦自体にもストーリーだけでない強みがある。それはスペルト小麦とほぼ重なるが、ミネラルが多く、消化し易く、小麦アレルギーを発症しにくいという特性。そこでアメリカやカナダを中心に広い地域で栽培がされているという。

カムット小麦粉

農作物の売り込み方法としては、むしろ参考にすべき

キリスト教の信仰者であれば、自らは古代エジプトの契約の民の子孫であるとどこかで信じているものかもしれない。そこで、西洋人にとって琴線に触れる売り込み方というのが、このエジプトの絡んだストーリーなのだろう。実は、品種としてはカムット小麦の原産地は不詳で、登録商標でないこの麦の名称はKhorasan wheat、つまり現在のアフガニスタン辺りに由緒がある麦と考えた方が良いかもしれない。それを強引にエジプトにつなげたという辺りが、マーケティングの妙技だったか。

さて、こうした品種復活の取り組み、実はこのブログで何回か紹介しているはずだ。それが、秦野市の波多野ダイコンや、平塚市のキュウリ、相模半白節成など。これらの品種は江戸時代のあたりまで遡るものであり、復活アピールで呼び起こせるのが、ご当地の地産地消需要に留まるものかもしれない。

けれども、もっと誇大妄想的な大風呂敷を広げられる品種を復活させれば、売り込み先はさらに大きくなる筈だ。厳密には復活品種ではないけれど、古代米というものも日本人の弥生時代の記憶に訴えかけるようにして売り込み範囲を広げている。そこでたとえば中華文明からの渡来品種が日本に保存されていて、それを復活させましたというようなストーリーをつければ、アピール範囲は中国方面への輸出需要にまでひろがるのではないかと思う。スペルト小麦、カムット小麦と同じようにオーガニック栽培と結びつければ、品種が中国国内に渡っても中国でオーガニック栽培は期待できまい(笑)。

地産地消の次のステップというものは、地域外へも売ることの出来るストーリーをひねり出すこと、なのかもしれない。