秦野市の老舗旅館「陣屋」経営を立て直したという「陣屋コネクト」
秦野市で最も格調高い旅館といえば、鶴巻温泉にある元湯陣屋。旅館として営業を開始したのは昭和になってからであるが、それ以前には三井財閥の別荘として使われ、さらにそもそもの敷地は鎌倉時代の和田義盛公の陣屋跡であるという。別荘時代に明治天皇が宿泊されたという「松風の間」は、大磯にあった黒田藩の別荘から移築してきた部屋であるといい、将棋のタイトル戦の舞台にもなる。
経営を立て直すため、旅館業に特化したアプリケーションを開発
そんな陣屋であるが、経営の悪化により、つい数年前には廃業あるいは売却の危機を迎えたという。そうした実家の危機に、当時ホンダのエンジニアであったという経営者子息の宮﨑富夫氏が戻り家業を継ぎ、旅館業に最適化されたアプリケーションを自社開発、徹底した効率化をはかって、利益体質に変えたという。そうした話が、東洋経済オンラインの記事として出ていた。
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興味深いのは、効率化の内容である。旅館業において重要となるのは宿泊客ひとりひとりの好みを把握し、適切なサービスを提供すること。客からスタッフに好みについていちいち伝え直さずとも、自分のことを理解してくれているという現象に出会う数が多ければ多い程、お得意様になってくれる確率が上がるのである。
伝統的な旅館業では、こうした客の好みの把握についてスタッフの記憶力や、帳簿などによって情報を保存・共有していた。これをクラウドベースのアプリケーションを使って、どのような場面でも情報保存・引き出しができるようにすることで、伝達ミスが引き起こす食い違いなどにより客にまずい印象を与えることを避けられる。
現在では旅館の評判などは、口コミ評価サイトなどを見れば一発で調べることが出来る。それは何か過失があった場合にすぐに悪評が立ってしまい、ネット上に残り続けるということでもある。旅館業においても、それこそ製造業並みの品質管理が求められる時代になったということなのだろう。
陣屋で開発したアプリケーションを陣屋コネクトとして外販に
こうして陣屋の経営改善に役立ったアプリケーションを、現在では陣屋コネクトという製品名で全国の施設に外販を行っているという。全国の採用事例が、陣屋コネクトホームページによれば100施設以上になるそうだ。
陣屋がこのように乾坤一擲の改革をしなければならないほど追い込まれたのは、なにぶん秦野市や鶴巻温泉にアピール力がなかったからであろうけれど…結果的に秦野市からこうしたイノベーティブな企業が誕生してくれたということは、素直に喜んでもよいのではないかと思う。
元湯陣屋(楽天トラベル)